**この記事は、日西商業会議所発行の季刊誌「
スペイン広報61号 2004年秋季号」に掲載されたものです**
今のご時世、「日本人のフラメンコ・ギタリスト」という存在は珍しくないが、それが「デュオ」となると、そして2人が「兄弟」となると、そうはいない。
私が知っているのは1組だけだ。
知る人ぞ知る彼らの名は「池川兄弟」。スペイン語で言うところの「ロス・エルマーノス・イケガワ Los Hermanos Ikegawa 」である。
三味線に「吉田兄弟」という兄弟デュオがいるが、こちとら「池川」でございィ。なにとぞお見知りおきをォ・・・とばかり、夏の或る日「ソナ・ハポン」にもゲスト出演してくれたこの2人を、今回はご紹介したい。
兄のトシ君(写真右)が24歳、弟のヒロ君(写真左)が23歳、言わずもがなまだ若いエルマーノスだが、フラメンコギター歴はかなり長い。弾き始めたのはそれぞれが6つと5つの時だったという。
きっかけはお父上。なんと!ラテン歌手で、東京にいわゆる「バル」のような店をお持ちとのこと。そこでフラメンコショーに出演していたギタリストが、いつの間にやら2人の先生になっていたそうな。
思春期に入ると2人とも、フォーク、エレキ、ジャズ、クラシック、ラテンなど他のジャンルに傾倒するも、最終的にはフラメンコの魅力を再確認し、大学生になった頃から、本格的にギターの先生に師事を始める。
「両親が経営するバルでも時々演奏していたことから、ラテン・バイオリニストの依田彩(よだあや)さんと知り合ったんです。彼女のバイオリンに2本のフラメンコギターを挿入する“味な競演”がとんとん拍子に実現し、蓋を開けてみると大好評!依田さんの新作アルバムへの参加や、多くのライブ活動へとつながっていったんです」と弟。
「依田さんと一緒にお仕事をさせていただいて、音楽的な知識や感性が磨かれましたし、違うジャンルと関わることによって、フラメンコへの別のアプローチの仕方や、在り方の糸口を掴んだように思います。今後は、ピアノ、フルート、パーカッション、ボーカルといった他の楽器のとのコラボレーションにも積極的にチャレンジしたいです」と兄。
このように運にも恵まれ、次第に実力も自信もついてくると同時に、エルマーノスの中には「本場を知りたい、肌で感じたい」という、焦りにも似た欲求が生まれて来る。そして、ついにはスペインはアンダルシアに渡る決意をするのだった。
03年の末から兄が、04年の4月から弟がそれぞれ6ヶ月間の留学。期間が短いため、言葉の習得よりもマエストロにギターを教わることと、コンクール、フェスティバル、公演などの観賞に重点を置いた生活を送った。「揺籃の地」セビージャとヘレスで過ごしたフラメンコ漬けの時間は、予想以上の収穫を2人にもたらしたようだ。
詳しくは、池川兄弟のホームページ
www.sound.jp/ikegawa-kyodai/ でご覧いただける。彼らの視点と言葉で綴られた悲喜こもごもの滞在記は、なかなか興味深い。なお、今後のライブ予定もここで確認できる。
さて、番組には2人にギター持参で来てもらった。スタジオでの生演奏というのは、実は「ソナ・ハポン」始まって以来のこと。当日は、おしゃべりは極力控え、フラメンコギターの音色を目一杯楽しんでもらおうという趣向だった。
スペイン語での放送のうえ、リハーサルなしのぶっつけ本番だったため、気の毒に・・・エルマーノスは相当緊張していたが、ギターを弾き始めるとスッと己が世界に入っていった。その姿は、まさに「水を得た魚」のようで、私は大そう感心したのだった。
映画Sound of Musicから“My Favorite Things”のブレリア風、パコ・デ・ルシアもカバーしているラテンの名曲“Tico Tico”、日本の古謡“サクラ・サクラ”と計3曲演奏してもらったのだが、「やっぱり生はいいねぇ!伝わり方が違う」と私たちスタッフも大満足。オーディエンスからも「よかった」という反応が多くて・・・、うん、このスタイルは病み付きになりそう。
「フラメンコ界の狩人」!!
私は、この異名を彼らに贈りたい。
狩人といっても「猟師」のことじゃなくて、そう!デビュー曲「あずさ2号」が大ヒットしたあの兄弟デュオ。うーっ、懐かしい。あれは77年のことで、2人ともまだ生まれてなかったらしいが、なんと!狩人は今でも現役で活動しているのだ(知らなかったでしょ?)。
池川兄弟にも、彼らのように息の長ーーいデュオとして、頑張ってもらいたいとの願いを込めて・・・。