**この記事は、日西商業会議所発行の季刊誌「
スペイン広報75号 2008年春夏合併号」に掲載されたものです**
「世界中で起こっている森林破壊の主要因の1つが牧畜です。もちろん牛に責任はないんですが…、現在地球上で飼育されている牛は13億頭に上り、家畜の3分の2を占めます。牧場を造るために森が切り開かれ焼き畑が行われています。1個のハンバーガーを作るために5平方メートルもの森林が犠牲になっているのをご存知でしょうか?この40年間で、南米の熱帯雨林の40%が輸出用の牛肉を生産するため破壊されてしまったんです」
そう語るのは、ロンドン在住の書家・日本画家の
屋良有希(ヤウラユキ)さん。アーティストとしての活動の他に、彼女はここ8年ほど、イギリスの大学やアートカレッジで「日本の自然環境」についての講義を行っている。
そもそもの発端は、英国王立芸術大学(Royal College of Art)の大学院で取り組んだ、博士号修士課程のプロジェクトだった。進化論で有名なダーウィンの孫が学長を務めたこともあるという大学院の博物画とエコロジー研究科に籍を置き、「日本絵巻物及び博物画に於ける其の現代的適用」という論文制作にかかったのをきっかけに、日本の自然動植物と環境、日本人の思想、文化、それらの変遷といったリサーチを始めることになった。思いもよらなかった事実が明らかになるにつれて、幼い頃から生物に親しんできた彼女の興味は徐々に地球規模の環境問題へと広がっていき、大学院を卒業した今もこの調査・研究は続けている。一方でこのライフワークは如実に作品に反映され、不可欠な要素ともなっている。
日本書紀の牛 © Yukki Yaura
ここにお借りした写真は、「ロンドン・カウパレード」というチャリティーのために、有希さんが制作したオブジェ。各アーティストがデザインしたファイバーグラスの牛を、街頭展示の後オークションにかけ収益を慈善団体に寄付するという催しで、ロンドン中に等身大の牛が展示された。彼女は「日本書紀」の中から獣肉禁止令の部分を抜粋し牛に描くというデザインで出品。ちなみに、マドリードやバルセロナのギフトショップやミュージアムでも、ミニサイズになったこの牛が販売されているそう。
「温暖化の原因の1つがなんと牛のゲップだそうです。それと牛によるメタンガスの放出、 酸性雨の主な原因であるアンモニアをはじめ100以上の汚染ガスも排出します。なぜかと言うと、 牛の糞は水分が非常に多いため窒素をすぐに空気中に放出してしまい、土に還ることがほとんどないんですね。そのまま固形化してしまいますから、簡単にいうと肥しにはならないんです。そればかりか、川に流れ出し水を汚染してしまいます」
有希さんが英国で行っている講義の短縮版を、英語ではなく日本語でお話してもらえないだろうか?そんな思いつきから実現したのが、今シーズンのソナ・ハポンの「環境をめぐる日本と日本人事情」のコーナーだった。
西洋のそれと比較した形で9ヶ月にわたりレクチャーしてもらった内容は、「なぜ日本には森が残ったのか」「日本人の思想・考え方が森を守ることにつながった理由」「縄文時代と縄文人と縄文食」「日本にはなぜ狼がいないのか」「日本人の感性と虫塚」などなど、とても勉強になるものばかり。インタビューは番組のポッドキャストページ(
http://zonajapon.cocolog-nifty.com/blog/)に全てアップロード済みなので、ぜひ聞いてみてほしい。
絵巻 © Yukki Yaura
日本伝統の「思想」と「素材」を土台に彼女の「愛」がプラスされて生まれた日本画、水墨、書、絵巻、自然博物画、俳画、壁画といった作品は、これまでビクトリア&アルバートミュージアム、自然博物館、英国王立劇場などで展示された。また、ここスペインでも過去4回デモンストレーションを行って好評を博している。
壁画 © Yukki Yaura
公式サイト(
http://www.yukkiyaura.com)には、映画監督のスティーブン・スピルバーグやピーター・グリナウェイとの仕事、これまで受賞した賞、著書、作品群が網羅されているので、こちらも1度チェックされたし!